俺達はなるべく誰かに会わないよう,静かに南に向かって茂みの中を歩いていた。は本当に,全てが素晴らしいとしかいいようがなかった。その冷静さも感嘆モノだったが,地図を見て,方角を確かめ,周りの状況から的確な判断を下し,俺達を最短ルートへと促してくれた。なにより――銃の扱い方が本当にすごかった。かなり馴れた手つきで,手入れから弾の込め方,その他色々,全てこなしていた。俺たち一般人とは,明らかに違った。――明らかに,修羅場に慣れていた。


――こいつは,一体何者なのだろうか?


そんなことを考えているときだった。オレの顔の前を,なにかがひゅっと横切った。オレは驚いて避けた――確認した,それは――。大木立道(男子3番)と,大木が俺に向けて振り下ろした,ナタだった。


「大木っ‥!!」
「やってやる,やってやるぞ!」


何が起こっているんだ,大木,どうしたんだ,そんなものを振り下ろしたら,本当に死――死‥!俺はどうしたらいいかわからなかった。たぶん,このゲームにおいて初めて本気で俺自身の死を実感した瞬間だった。ノブが死に,ノブに向かって中川を守ると誓い,とともに行動することとなり, も守ると誓って,でもここで死んだら,守ることができなくなるどころか,これから待ち受けているはずであろう,楽しいことつらいこと全部全部――。俺の想いは少しも言葉にならず,大木はナタを構えた。すると,――


「‥そんな武器で銃を持った私に勝てると思ってるの?‥バカな人,本当にバカな人」


は見ているこっちが身震いするような冷たい目で,その美しさをより一層惹き立てるような冷たい笑顔を浮かべて,何の躊躇もなく,大木の頭を,持っていた銃で撃ち抜いた。


「キャァ!」


中川が悲鳴を上げる。
こいつは,は,――笑って人を殺した?こんな虫も殺せないような,きれいな顔の女が,このが?


,さん‥?」
‥」


俺の頭の中は,先ほどの質問に戻った。――なんだ,何者なんだ,この女は?は‥?銃の扱いに馴れているだけなんかではなかった。容赦なく‥人を殺した。



パン



もう,つい先ほどまでとは違う,初めて聞く音ではない,乾いた音がした。


「いいよ,やってやるよ‥」


数学の公式や独り言をぶつぶつ云っている,元渕恭一(男子20番)だった。今度はなぜか自分の命の危険は全く感じなかった。けれどその代わり,ただ,また1つ他人の死を見ることになるのだろうかとだけ思った。





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