『皆さん,おはようございまーす!担任のキタノでーす!』

昨夜の悪夢から覚めきれないまま,朝が来た。現在は午前6時になったばかりらしい。記念すべき第1回目の放送が始まった。声の主は,新しく担任になったらしいキタノだった。

は平然としているにしろ(なんでこんな状況で普通にしていられるのだろう?),中川は顔が真っ青になっていた。無理もない。もしかしたら――天堂の他に死んだ奴がいるのかもしれない。もしかしたら,オレと仲のいい三村信史(男子19番)かもしれないし,杉村弘樹(男子11番)かもしれないし――。中川と仲のいい女子達かもしれない。できれば聞きたくなかったが,そんなわけにはいかなかった。できれば知りたくないことであるが,きっと知らなければならないことだろう。

『もうそろそろ寝てる奴は起きろよー。では,死んだ順番でーす』

順番,――ということは,きっと死んだのは天堂のみではない。中川の顔がぐっとこわばった(だけは相変わらず平然としていた)。

『女子14番天堂真弓,男子1番赤松義男,9番黒長博,10番笹川竜平,14番月岡彰,17番沼井充,女子5番金井泉,男子21番山本和彦,女子4番小川さくら,男子8番倉本洋二,女子21番矢作好美,3番江藤恵,以上12名!』

「恵?!」

中川が叫んだ。俺は死んだ人間のあまりの数の多さに,と愕然としたが,中川は何より親友の江藤の死がショックだったようだ。いつもあんなに仲良くしていたのに‥。なんて狂っているんだ,このゲームは!!

『大変良いペースです!先生嬉しいです!』

何が嬉しいんだ,あのクソ野郎!ふざけやがって‥。

『次に,禁止エリアでーす!』

怒りで我を忘れそうだったが,俺たちは前に進まなければならなかった。禁止エリアを書くために地図とペンを取りだした。

『7時からE5,9時からE8,11時からF2』

俺たちは必死に地図の各エリア内に時間を書き込んだ。なんでオレは――俺達は――こんなことをしているのだろう?絶望の中にいるはずなのに,必死で生にかじりつかなければならない。わけがわからなかった。

『分かったかー?みんな友達が死んでつらいかもしれないけど,元気だせよー。じゃーなー。』

「恵が‥」
「中川‥」

中川はあまりのショックに現実が受け入れられないようだった。俺もノブのことがあったから,中川の気持ちは痛いくらいわかった。本当はゆっくりさせてやりたかったが,もうすぐここが禁止エリアになるので,早く移動して,ゆっくりできるところを見つけてやりたかった。

「もうすぐここが禁止エリアになる。もっと南へ行こう。さぁ‥」

俺はまだ茫然としている中川を立ち上がらせようとした,その時だった。

「ちょっと待って!あなた達どこかにいくつもり?!」

に呼び止められた。
それまで平然としていたはずのだったので,俺達はあまりの声の大きさに少々驚きつつ,答えた。

「は,はい‥」
「どうせ大した武器も持ってないんでしょ?信じられないかもしれないけど,やる気のある人はいーっぱいいるのよ!」

それは1番分かりたくないことだった。しかし,そうでなければ,あんなにもの人が死ぬわけないのだ。今は,分かりたくないことを飲み込むのを避けてる場合じゃない。現実をみなければ,待っているのは確実に死だ。オレがそんなことを考えながら唇をかみしめていると,は思ってもいなかったことを口に出した。

「‥分かったわ。よし!私がついていってあげる。あなた達を助けてあげるっ!私,会わなきゃならない人が2人いるの。その人に会うまで,あなた達のボディーガードしてあげる。‥大丈夫よ,殺したりなんかしないから。よろしくね。じゃ,行こっか」

そういっては,明るく,美しくほほ笑んだ。こんな愛らしい顔をしているのに,意外としゃきしゃきしてて統率力があるんだな,と思った。俺はもちろん,たぶん中川も,をやる気のある人間,とは思っていなかった。それなら昨日会った瞬間に俺たちを殺せばいいことだ。それに,なんとなくだが,はそういう人間には思えなかった。がボディーガードをできるとは思えないが,仲間が増えるのは俺たちにとっても喜ばしいことだ。中川さえよければ,と思って中川を見ると,中川はにこりと笑って頷いた。中川も同じように考えていたらしい。

「はい,こちらこそよろしくお願いします, さん」
「あら,堅苦しいわ。,で良いわよ」
「‥じゃあ, さん」
「そう?それなら良いわよ,それで」

そして,俺達3人は南へと向かった。これからどんな困難が待ち構えているのかも知らずに‥。





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