あなたが変わってしまったのは,私のせいなの?
だったら謝るから。誠意を込めて謝るから。
あなたが望むようになれるよう,努力するから。
だから――お願い。もとのあなたに戻って‥。






「そこにいるのは誰?」
「お,お前は――」
「ああ,良かった。大丈夫そうな人達ね」

あの謎の転校生,だった――。

あれからせいぜい数時間しか経っていないから当たり前かもしれないが,
は相変わらず美しかった。中川には山道をずっと走ってきたせいか,髪や頬に砂がくっついていたり擦り傷ができたりしていたが,にはそんなものはまるで見当たらなかった。これほど美しければ,そのようなものも装飾品のように彼女自身の美しさを引き立てるものになるのだろうか。先ほどと違うところといえば,懐中電灯を手に持ち,ディパックを肩にかけ,その華奢な手には似つかわしくない,支給武器らしい拳銃を持っている。



け,拳銃――!!



そこで俺は,俺たちの命を脅かすものの存在に気付いた。女の子はか弱くて守ってやるもの,というフェミニズムな俺の考えなんて,一気に吹っ飛んで行った。拳銃なんて代物,善良な町民だった俺には,お初お目にかかるもの,だった。こいつが美しいだとか,この際そんなことどうだって良い。もし,この女が―― が,このゲームにのっているんだとしたら――。虫も殺せないような顔はしている,しかし,もし――もし,そうなのだとしたら――。
だがこの女は、オレが,そしてたぶん中川も,考えもしなかったことを口にだした。

「今,お取り込み中?」
「え?」
「‥だよね。ごめんなさい。でも,大丈夫よ,私,カップルの邪魔はしないから」

俺はの言葉に呆気にとられたのだが,中川の頬はほんのり赤く染まっていた。照れているようだった。そんな中川を見て,俺もなんだか気恥ずかしくなって,俯いた。

「大丈夫。ね,私,あなた達を殺そうなんて思ってないから‥」

俺はこんなに美しいの口から気軽に“殺す”なんて言葉が出てきたことに驚いた。こんな状況だからなおさらだ。しかし,のその顔色に嘘なんてものが微塵も見えなかった。

「だから,そっちに行っちゃダメ?今夜はそこで寝泊まりしたくて」
「ど,どうぞ‥」

中川がどんなふうに考えていたのかはわからないが,少なくとも死の危険におびえているふうには見えなかったので,俺は何も言わなかった。

「ここであったのも何かの縁。よろしくね,中川サン,七原君」
「なんで,俺達の名を‥?」
「私より先に出発したじゃない。それに――」
「それに‥?」

の顔がさみしげに歪んだ。そのの顔も美しかったが,先ほどまでのとはまるで同一人物とは思えなかった。

「‥なんでもないわ。さ,私は奥の方に行くから,お話の続きをどうぞ」

はまた教室で見たような美しい笑顔でにっこりとほほ笑んで,洞窟の奥のほうへと消えていった。その反応の仕方に少々違和感を覚えたが,あまり深入りしない方がいいのかもしれないと思って,オレと中川はの後ろ姿を見送った。






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