「ほんまにお似合いのカップルやなあ,あの2人」
「ほんまやなあ。羨ましいわあ」


2人は今や学校中の憧れの美男美女カップルやった。もう大昔のことのように感じるけれど,きっとほんの数ヶ月前までは,の隣には部長やなくて,俺がおったはずや,たぶん。いや絶対。


素直になれなかったから,からかわれるのが嫌だったから,なんとなくいらいらいしていたから,は何にも悪くないいろんな理由で,俺は一方的に突き放した。それでもはわかってくれていたから,そんな俺をも受け入れてくれていた。


俺はそんなの優しさに甘えてしもたんやと思う。あるいは,の俺への想いに調子に乗っていたのかもしれない,もしくは,どちらも。結局この関係が終わるまで,に負わせた深い深い心の傷に,俺が気づくことはなかった。


「光,ごめん‥」

「私,もう光の気持ちがわからん‥」

「ほんまにごめん,光,ほん,まにっ‥」


は何にも悪ない,だから泣かんといてくれ,俺はが好きや――。このぐらいのことでさえ,俺は言うてあげることができんやった。


きっとは今,が理想としていたカップルとしての生活をめいいっぱい楽しんでるんや。


「白石くん,ガット緩んでない?」
「おお,ようわかったなあ!」
「当たり前やん!うちに白石くんのこと,わからんことないんやもん!」
「ほんまにかわええなあ,は」


部活ではマネージャーとして支えて,学校ではクラスメイトとして協力し合い,


「白石くん!」
「またお前は。部活以外では,名前で呼ぶように言うたやろ」
「‥〜〜〜っ,だって,恥ずかしいんやもん!」
「ほら,誰もおらんかろ?言うてみい」
「‥蔵くんっ」
「ようできたなあ」


プライベートでもよき彼女として支えて。


部長と俺は同じ生き物で性別も一緒のはずなのに,ほんまにぜんぜん違う。俺は好きでも好きとは言えん。でも部長は恥ずかしげもなくさらっと愛してる,と言えるんやろう。好きになったら,この年頃なら「白石は好きな子おるん?」なんて聞かれてもふつう答えないだろうが,部長はさらっと「おるよ。俺,同じクラスの,が好きやで」なんて言うんだろう。ちなみに俺は死んでも言わへん。俺なんかとおるより,部長とおった方が,幸せになれるにきまってる。そう割り切っているはずなのに,



――なんなんやろ,この気持ち‥



だんだん2人の距離が縮まっていって,学校公認の憧れカップルとなり,もう2人が一緒にいるのは当たり前みたいになって,そう,の誕生日,何ならおめでとうぐらい言ってやろうかと思ったら,のきれいな手のきれいな指の中で,何かがきらきらと光っていた。あまりの衝撃に,おめでとうどころか,あいさつさえもできなかった。



俺がつけた傷を癒せるのは,俺だけやと思うとったけど,たぶん違かったようで。


俺はその傷が早く治ればいいと思うのと,一生治らず,一生俺のことを忘れなければいいのにというジレンマにさいなまれるだけの日々を送った。






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