俺が大学に入学して1番最初に思ったこと。


大学に入った途端女は全員茶髪になってケバくなる!


そんな中でも,黒髪でメイクもそんなにしてないみたいなのに可愛い,というか何にもしなくても元が可愛い,それが俺の好きな先輩。


入学式。茶髪の先輩が見れるー!ってテンションあがって,俺は関係ないんだけど幸村部長たちに会いに行くふりをして会いに行った時のこと。


せんぱーい!」
「ん?あ,赤也!」


スーツ姿を見られて少し恥ずかしかったのか,はにかむ先輩。めちゃめちゃ可愛いんだけど,何かが物足りない。


先輩‥髪染めなかったんすか?」


茶髪の先輩を見に行ったんだけれど,先輩の髪色は何一つ変わっていなくて,ついでにメイクもあんまりしてないみたいだった。まあ,先輩らしいっちゃ先輩らしいんだけど。


「え?!なんでなんで?!」
「いや,女って,大学入ったら茶髪にするもんだと思ってたんっす。姉ちゃんとか見てたから」
「あ,そうなんだ。うーん,しようかなとも思って悩んだんだけど,でもお父さん厳しいし,とりあえず見送る」


なんだか苦笑いしつつそう話す先輩に,俺は愛想もなく「ふーん。」とだけ返した。


夏に入り,あからさまに金髪の大学生(たぶん顔からして1年生)が増えた中で,やっぱり先輩は黒髪だった。メイクも相変わらずそんなにしてるようには見えない。


先輩,まだ髪染めないんすか?」
「え,私に染めてほしいの?」
「まあ,見てみたいのはあるけど。まあでも先輩黒髪似合ってるしいいと思うっすけど」
「ほんと?ならよかったー!」



そう言いながら先輩の顔に浮かぶふわっとした笑顔にうっわ,やべぇ,可愛い!なんて思いながら,俺はそんな自分を冷めた目で見ていた。


「メイクは?あんましてなくないっすか?」
「あ,うん,そうだね,ほとんどしてないと思う。たまにぜんぜんしてないときもあるし」
「メイクしないんすか?大学の敷地入ったら,してない人ほとんど見たことないんすけど」
「うーん,よく言われるんだけど,その分寝てたいのもあるし,めんどくさいし,お父さんメイクしたら怒るし‥とかいろいろ考えてたら,めんどくなっちゃって」
「お父さん厳しいんっすね。てかめんどくさがり過ぎじゃないっすか?」
「うん。自分でも思うよ」


そうして秋になって,冬になって,また春が来て,俺が大学に入学して,そのときには先輩は2年生になって,また夏が来て秋が来て冬が来て,また春が来ても,
先輩が髪を染めることもメイクを頑張ることもなかった。


何でぜんぜんメイクとか頑張らねーんだろーなー。髪も染めねーし」
「ブンちゃん,そんなこと言っちゃらんの」
「仁王は思わねーの?」
「まあ,そうやのう。似合うんじゃなか,とは思うが」
「だろぃ?」


周りに何を言われても,先輩は,メイクしたくないとかいうわけではないみたいなのに,何もしようとはしない。そういう先輩も好きなんだけど。


「まあせんでもあれだけ可愛いからのう,いいんじゃなか」
「まあ,結局のところ,そうなんだけどなー」


けど先輩は,なんで髪染めないんだろう?メイクしないんだろう?なんてことは,俺は先輩に直接聞きはしても,ブン太先輩たちみたいに本気で思ったことはなかった。先輩が髪を染めない理由も,メイクしない理由も,俺はたぶん1番初めから気付いていた。


ただ俺は,俺が思ってることと違うことを言ってくれという淡い期待を持ちながら,尋ねていただけで。


「‥真田くんっ!練習お疲れさま!」


先輩が真田副部長に,いつものようにスポーツドリンクとタオルを持っていくのを,遠くから見ていただけで。


「いつも申し訳ない」
「ううん!私,テニスを頑張ってる真田くんを,応援したくてしてるだけだから。これからもがんばってね!」
「うむ。ありがとう」


先輩が近づいてくると,ほんのり染まる頬を隠すために,帽子のつばを深くかぶる真田副部長を,遠くから見ていただけで。








この関係が,いつか変わる時が来るのだろうか。
先輩が髪を茶髪にして,雑誌に載っているような可愛いメイクをするようになる日が,いつか来るのだろうか。








先輩が俺のことを好きで,俺の好みが“ギャル系の子”だなんて言ったら,ギャルみたいなメイクとかそんなの,してくれたんだろうか)



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