2年生になったからと言って,大学生の学生生活はそんなに変わらない。高校と違って長い長い春休みの感覚からまだそんなに抜け切れないまま,ほんの2,3か月前と同じように学校へと向かい,今日の授業は6階の教室であったため,エレベータを使うことにした。すると,困ったような顔をした女の子がこちらに向かって走ってきた。エレベータに乗りたいのかな,と思って開けて待ってあげていると,申し訳なさそうに速度をあげて走って,乗り込んできた。


「すみません‥!ありがとうございます!」
「どういたしまして」


上下に胸を動かして息を切らしながら,汗がきらきらと輝いている彼女を横目で見やった。遠目で見ながら思っていたのだけれど――すごく可愛らしい。染めていなさそうなきれいな黒髪とほとんど化粧っ気のない柔らかそうな素肌は,新入生に違いないと思った。少々戸惑われたけど,あまりに興味を持ってしまったから,話しかけようとすると,閉まりかけていたドアが開いた。


「はあー助かった‥」
「赤也?」


エレベータに乗ってきたのは,赤也だった。


「あ!部長じゃないっすか!お久しぶりっす!うわー奇遇っすね,こんなところでー!」


相変わらず赤也は人懐っこい笑顔を俺に向けてきた。俺はそういった趣味はないけれど,相変わらず可愛いやつだなと思っていると,赤也が隣の彼女に話しかけた。


「悪ぃ悪ぃ,もう少しで遅れちまうとこだったな」
「‥赤也,知り合いなのかい?」


俺が話しかけようとしていた女の子と赤也はどうやら知り合いだったようで,何だか親しげな様子だった。赤也は俺がこの子に興味を示したことに少し驚いたようだったが,説明してくれた。


「ああ,こいつ俺の幼馴染なんっすよ。こいつ外部生なんっすけど,大学は立海に通うことになったんで,道に迷わないように連れてきてやったんっす。んで,しばらくは一緒に通うことになりそうっすね」
「へぇ,そうなんだ。よかったね,赤也がいて」
「‥!は,はい!」


赤也が説明しているあいだも,俺が話しかけたときも,彼女はうつむいたままで,恥ずかしそうにしていた。そうしているあいだにもエレベータは二人の目的階に到着した。どうやら二人は同じ授業を取ってるらしかった。


「じゃ,部長,お先っす!今日テニス部見に行きますんで,よろしくっす!」
「わかったよ。じゃあね,赤也」


赤也が見学に来た時に早速彼女を紹介してもらおうと,俺は楽しみで仕方がなかった。




「えええええーーーーー!!!!」


――と,思ったのだけれど,そんなにうまくはいかなかったようだ。赤也はめちゃくちゃに嫌そうな顔で,全力で拒否してきた。


「‥何か問題でもあるのかな,赤也?」
「問題ありまくりっすよ,部長!あいつだけはまじでだめっすよ!!」


赤也は俺の笑顔で一瞬ひるんだようだったが,本当に嫌だったのだろう,負けじと拒んできた。


「あいつたぶん幼稚園の頃とかいっつも一緒に遊んでて,けどあいつ小学校からずっと私立の女子校通っててあんま会う機会なかったし,すっげー男苦手なんで,俺ほんとようやくここまで辿り着いたんで!俺ずっと昔から狙ってるんっすから!ほんとあいつだけは勘弁してくださいまじで!!」


なるほど。恥ずかしそうにしていると思っていたけれど,単に女子校育ちで男とあまり接したことがないだけだったのか。けれど赤也とは普通にしていたので,赤也は何とか頑張って友達のポジションを得たのだろう。赤也は可愛い後輩だ,できればこれからも可愛がってあげたい,が――赤也の話を聞いて,すっかり気に入ってしまった。


「赤也の気持ちはわかったよ。でも悪いけど,俺,気に入ってしまったみたいだ」
「ええー!!まじやめてくださいって部長ー!部長なら他にも女の子いっぱいいるじゃないっすかー!!」
「ごめんね,赤也。けどさすがに俺も鬼じゃないから,彼女を好きな赤也に紹介してなんて言わないから安心するんだ。俺は俺で頑張るからね」
「それもお願いだからやめてほしいっすー!!」


さあ,この勝負,俺と赤也,どっちが勝つのかな?
何かが始まる予感がした。



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