「もうー何歳だと思ってんの!切原ってば奥手すぎなーい?じゅーんーじょーうー!」


純情とか,もうそんなのどうだっていい。戻れるならあの頃に戻って,俺はもう1度すべてをやり直したい。






めでたい立海大付属高等学校の入学式,この日の出会いが全ての始まりだった。へー,高等部の教室ってのはこうなってんだな,中等部とはちょっとちげーんだなと,さほど目新しくもない校舎を進み,クラス分けで自分の名前があった教室に到着した。寝坊して遅刻しかけで大慌てで見たため,大して注意して見ていたわけでもなく,このクラスで正しいのか少し不安になったが,教室のドアのところに貼り出されていたクラス名簿のようなものに自分の名前があったので,ふう,と一息ついて扉をがらっと開けた。ほとんどの生徒が俺より先に着いていたらしく,席はかなり埋まっていた。仲良く談笑でもしているのかと思いきや,内部生の仲のいい者同士数名を除くと,まだ教室の雰囲気になじめないらしくそわそわとしつつ大人しく自分の席に着いて教師の到着を待っていた。俺も徹ゲー明けで入学式中の仮眠では睡眠が足りなかったらしくまだ眠かったので適当に寝てようと,中等部からの見知った顔に「おう,赤也!また一緒じゃん!」「おうー」とか適当に返して,今日から1年間こいつらと過ごすのかとざっと回し見ながら,席に着くことにした。


しばらくすると担任だとかいういかにも新米そうな若い女教師が入ってきて教壇に立ち,いろいろ話し始めたのをあくびをかみ殺し,春のうららかな日差しの中でうとうととしていると,今思うとあれは運命だったのかなんなのか,ばさばさばさっと結構大きな鳥が窓のすぐ向こうで羽ばたいていたのが少し気になって,俺は何の気なしに左の方向に顔をやったのだった。――その日俺を煩わせていた眠気は一気に覚めた。そのときふと俺の視線が気になったのか,俺の左隣の窓際の席に座っていた女がきょとん,とした顔で俺を見やった。視線と視線がばっちりぶつかった。――俺は思わずごくりと唾を飲んだ。


可愛かった。美人だった。というか,なんといっても,そう,俺の好みのタイプどんぴしゃ,というのも言い過ぎでないくらいに俺のタイプだった。そう,可愛いとか美人だとか顔のつくりはもちろん高校生くらいの年ごろには大切なことに違いないが,好みのタイプかどうかというのは何より重要な論点であると俺は思う。だっていくら美人でも,タイプじゃなかったら美人だと思えないし?逆に世間一般的に顔がいい方ではなくとも,自分の好みのタイプだったら可愛くてたまらないかもしれない。いやまあ,そんな言い回しをしては誤解を招くかもしれない。彼女は間違いなく世間一般的にも可愛い。けど,やっぱり何より,きれいな黒髪の間から除くまん丸の目が俺をしっかりととらえて,そりゃあもう有頂天に達していた。どれくらい見つめあっていたのだろうか,俺はただ彼女をじっと見ていたのだが,少し経って彼女は恥ずかしそうにもいぶかしげにも見える表情をして,また担任教師へと目を向けた。いかにも清楚そうで純情そうで可愛い‥と思ったのはつかの間で,じっと見るなんて,これじゃあただの変態と思われても仕方ないと,俺の幸福は一気に谷底に突き落とされた。このまんまじゃ何をするまでもなく玉砕だ‥!とお先が真っ暗になり,あれは君を見ていたのではないんだとかなおさら気持ち悪いと思われることを何度も言いに行ってしまいたいと狼狽えるほど,俺はその日は悶々として寝れなかった。


次の日の朝のホームルームで,彼女の名前を知った。


結城まりあさん」
「はい」


高い,けど高すぎない教室中に響き渡るようなまっすぐな声で,俺はリアルに心臓の鼓動が抑えきれないという初めての経験をした。こんなの,しょうもない恋愛小説の中の表現ってだけじゃないんだなと心の底から思った。しばらくはレクレーションやら何やらで1週間はすぐに過ぎていき(クラスでやった自己紹介によると,彼女は外部生らしく,同じ中学からの人は一人もいないそうだ。部活も特に入る気はないと言っていた。何だかあまり自分のことをしゃべるのは好きではないように見えた),昔教室で女子が好きな人に会えないから土日は寂しい,とかほざいてたのを聞いてありえねーとか思ってた自分はどこだってくらい彼女に会えない土日を寂しい気持ちで過ごして,授業が始まると,彼女は顔だけでなく授業態度でもすぐに頭角を現し始めた。


「はい,じゃあ,次は結城さん,3ページの5行目から読んでください」
「はい」


それからすぐに始まった彼女の英語の音読に教室中の誰もが心を奪われた。いやまあ確かに,真剣に受けている人なんて一人もいない中で一生懸命授業に取り組み,あてられて何を聞かれてもすべてに答える様子は何となく優秀な人なんだろうなとは感じ取っていたけど,英語教師である担任の何倍も美しい発音で,美しい声で読み上げる姿に,胸が高鳴らない男子はいなかっただろう。無論俺は固まってしまった。そしてこの微妙な距離感が虚しくて,もっと近くで聞きたいと思い,それは叶わないのでせめて集中して聞きたいと目をつぶって聞き入った。彼女の音読が終わるとみんな自然と拍手をしていて,担任がほめても小さな声で「ありがとうございます」と呟いて,彼女は恥ずかしそうに俯いた。


間もなく入学してすぐにあったテストの結果が貼り出されて,どうせ自分は載っていないし(下の順位のやつの名前は貼りださないらしい)俺は興味もなかったので見に行く気なんてさらさらなかったが,クラスのやつが「結城が1位だぞ!」と騒いでいるのを聞いてすぐに見に行った。貼り出されているたくさんの名前の1番上に,一際大きな文字で結城まりあと書いてあった。すぐに教室に帰ると,彼女の席の周りには俺の席をも侵食するくらいたくさんの人だかりができていて,すごいねーとかなんとか言われる真ん中で顔を真っ赤にして俯いて,「そんなことないよ」と聞こえるか聞こえないかくらいのトーンで答えていた。帰りのHRで担任から褒められても(確か英語以外は全教科1位だったらしい)顔を真っ赤にして俯いて,今度は何も答えていなかった。あまり褒められるのは好きではないのだろうか,と思った。


ここ2,3週間ほどで彼女を見ていて,少しずつ彼女のことが分かってきた。彼女はもうそれこそ学年中の男子からの憧れの的となっていたが(うぜえ。ぜってー1番最初に見つけたのは俺なのに!),あまりそういうのには興味がないらしく,ついでに人付き合い自体にさほど執着がないように思えた。昼休みや,それ以外にもたまに同じくらいおとなしそうな子たちと静かに談笑しているくらいに見えた。彼女は品行方正で成績も優秀だったため,たびたび誉められることもあったが,恐らく褒められるのはあまり好きでないようだった。たぶん目立つのが嫌いなタイプなんだと思った(その可憐な容姿と漂う雰囲気から目立って仕方なかったので,なおさらその辺りに気を配っているのかもしれないと思った)。


いつになっても彼女と関わることができない俺に,大ラッキーチャンスがやってきた。なんと彼女と一緒に1日日直をすることになったのだ!日直の仕事は,移動教室の戸締り,黒板消し,日誌を書くことだが,まだ彼女に1度も話せていない俺だが,やっと話すチャンスがめぐってきた!まず役割分担,それで一緒に黒板を消しながら他愛もない話をして‥と,俺はめちゃくちゃ楽しみにして学校へと向かった。朝のホームルームで担任が俺に教室の鍵を,結城に日誌を渡した。おいおい担任,ばかやろー!これじゃあ役割分担とか話す前にもうだいたい決まっちまったじゃねえか!しかも今日は運の悪いことに教室移動はない日と来た。これ俺がなんか仕事しねえやつみたいになるだろ!日誌俺が書こうか?なんて言葉をかけようにも,すぐ隣にいるのにそっちを見ることすらできない。そのまんま1限が始まって,挙句の果てに先公はプリント配って黒板を少しも使わなかった‥。すでに計画はがたがたに崩れてきた。次の時間,先公がチョークを持った瞬間,思わずおお!と叫びそうになったのを堪えたが,なんとちょっと書いたらすぐに黒板なんて使わなくなり,授業が終わった瞬間に彼女が席を立ちぱぱっと消して終わった。その次の時間はなんと自分で黒板を消すタイプの先公で,何もする必要がなかった。いやまあ仕事がないのはもちろんいつもの俺なら嬉しすぎるくらいのことだが,これは運なさすぎるだろ‥と自分の運のなさを恨んだ(今日はあいつと日直の日だから,珍しく朝の占いをチェックしてきたのに。恋愛運◎だったのに!)。4限目になって,ようやく全面使って残して帰る先公だった。彼女は彼女らしく仕事はさっさと先に終わらせたいタイプのようで,また授業が終わった途端すぐに立って片面を消しだした。何となく周りの目を気にしつつ,俺ももう片面の黒板を消すことにした。一緒に黒板を消す。当たり前だが,こんな状況で会話が弾むわけがない。何となく分かりそうなことだったのに。何とかして少しでも話せたら,と思い,一生懸命話題を探すけれど,何にも見つからない。結城が黒板の上の方は届かないみたいで,ぴょんぴょん跳ねながら消している。「俺,上消してやるぜ」とかっこつけつつさっと男らしさを見せつけてやる妄想を頭の中で繰り広げたが,一向に行動に移せそうにもなかった。自分の甲斐性のなさが悔しくなった。そのまま結城はさっさと自分の仕事を終えて,手を洗いに行った。俺はせっかくのチャンスをものにすることができなかった。


言わずもがな,結局俺はその日は1度も結城と会話を交わすことができずに,帰りのHRはほぼ死人のようになっていた。帰りのHRが終わって,結城に「俺も日誌書くよ」と声をかける最後のチャンスだったが,彼女の横顔が視界に入るだけで体中が硬直して何も話すことができなくなった。――俺は諦めて部活へ向かうことにした。


「切原くん」


とても澄んだ美しい声だった。これは,この声は‥!けどさほど聞いたことがあるわけでもないし,何しろこの声が俺の名前を呼ぶなんて――。


「切原くん」


おろおろしていた俺をもう一度呼ぶ声が聞こえて,今度こそ俺は振り返った。結城が,俺の目をまっすぐ見て,俺の名前を呼んでいた。


「私,出しとくから,部活行ってきて,大丈夫だよ」


そういって,彼女はにっこり笑った。俺はテンパって,目を泳がせまくって,「お,おう!」と言って,意味もなく走って教室を出た。しかも何故か近くもない部室まで全力疾走したため,息がしにくかったんだが,軽い酸欠で,いやもしかしたら違う理由で,頭がぼうっとして,全然働かなかった。その日の練習はあまり熱が入らなくて,真田副部長には妙に浮ついているとおなじみのセリフで何度も怒鳴りあげられたが,俺はそんなの全く気にならないほど上機嫌だった。丸井先輩たちに「赤也,どうしたんだよ‥なんか今日のお前,気持ち悪ぃぞ‥」なんて言われたりもしたが,珍しくそんなのにも構わなかった。軽い足取りで帰路に着き,とりあえず朝見た占いは当たるみたいだから,今日から毎日見ることにしよう,と決めた。


とんとん,と肩を叩かれている気がした。めちゃくちゃ気持ちよく寝ていたので,無視すると,今度は左肩を両手でそっと触れられて,優しくゆさゆさと揺さぶられた。ふわん,といい香りがして,気持ちがよくなって,俺はさらに眠りにふけようとすると,


「切原くん!!いい加減に起きなさい!!」


という怒鳴り声と同時に,頭頂部辺りにかなり強い衝撃を感じた。どうやら朝練の疲れから授業中に居眠りしてしまっていたらしく,先公に辞書で頭をひっぱたかれたらしい。最悪の目覚めだ‥と思いきや,ふと顔をあげると,俺の顔の近くに,心配そうな結城の顔があった。びっくりして思わず後ずさってしまったが(いつ思い出しても惜しいことをしてしまったと思う。どうせなら近づいてやればよかった),結城は申し訳なさそうに席へと戻っていった。


「切原くんが何回呼んでも起きないから,結城さんに起こしてって頼んだの!それでも起きないから,悪いけど叩かせてもらいました。今度から結城さんに起こしてもらうようにするから。結城さん,お願いね」


しばらく続いていた笑い声が静まって授業はまた始まったが,お,おおおおおいおいおいちょっと待ってくれよ,いったい何だって?!結城が俺を起こしてた‥?ってことは,あの柔らかい感触とか,ふわっと香ってきたいいにおいはもしかして‥?!しかもこれから俺を起こす係ってことは,ああいうことが何回も何回も何回も‥!無論,それから俺はすべての授業で居眠りをした。もちろんすべて寝ていたわけではなく,しかも正直に言うと,ほとんど寝たふりをしていただけだった。完全に寝入ることはできる限り避け,しっかりと結城の感触や香りを楽しんだ。たぶんこれがきっかけで,俺と結城は少しずつ話す時間が増えていった。結城の前では緊張して,ついかっこつけて,あんまり話せなかったけど,それと同時に,たぶん結城は恥ずかしがり屋なところがあってあまり口数が多い方ではなかったけど,俺の部活の話とか,進路の話とか,少し込み入った話なんかも話せるような仲になっていった。


緊張して離せない俺と,恥ずかしがり屋の結城にしては,まあまあ,いい関係を築けていたのではないかと思う。結城と仲良くなれるよう,あわよくば結城と付き合えるよう,自分のために頑張って少しずつ構築していった関係を,俺は自分でぶち壊した。


「おい,切原。お前,結城のこと好きらしいじゃん」


それは真田副部長の制裁明けでかなりいらついていた俺にとって,ものすごく癪に障る言葉だった。


「はあ?意味わかんねー」
「みんな噂してんぞ!」


こんなの相手にしてもしょうがないとシカトすることにしたが,「無視すんなって!俺にだけ教えてくれよー?」とかまとわりついてきてうざかったので,ふて寝を決め込もうとしたら,そいつは得意げな顔をして俺に言った。


「てかお前結城とかぜってー無理だろ!あいつ美人だし頭いいし,控えめでいかにも和風美人って感じでさ,おまけに超お嬢様らしいぜ?お前釣り合わなさすぎるだろ!切原モテんだしさ,もっと相手考えろっつの!望み高すぎ!」


こんなつまらない発言,無視すればよかったのに,俺はなぜか,つい,反応してしまった。このとき,こんなの気にせず完全にシカトを決め込んでおけば,今でも結城は俺にふわりと笑いかけ,「切原くん」と名前を呼んでくれたんだろうか。俺は教室中に響き渡るほど大きな声で,そいつの胸ぐらを掴んで,怒鳴りあげた。


「‥はあ?!お前,まじうぜぇ!俺あんなガリ勉女好きでも何でもねぇよ!!」


そいつは俺の剣幕にびびったらしく,「お,おい,冗談だって。そんな怒るなよ」と顔を青くしていたので,適当に降ろして頭を冷やすために便所にでも行こうと思ったら,クラスの中でも大して可愛くもないし優秀でもないくせに威張り散らしている女グループ数人が,嬉しそうな顔をして俺にすり寄ってきた。


「うちらも切原って,結城のこと好きなのかと思ってたよー」
「切原があんな能面女のこと好きなわけないよねー」
「は」


すると口々に結城の悪口大会が始まった。愛想がないやら(そんなことはない。もしそうなのだとしても,たぶんこいつらの性格の悪さを警戒しているんだと思う),成績が良くて調子乗ってるやら(結城はみんなの前で褒められるのをすごく嫌がるし,調子に乗っているようには思えなかったが),自分のこと絶対可愛いと思ってるやら(そんなことないだろうけど,そりゃあ可愛いから仕方のないことだと思う。逆にあれだけ可愛くて自分不細工とか思ってる方がこえー)。要するに,全校中の男子からの憧れの的ではあったけど,まあ当たり前のごとく,だからといって女子みんなからも好かれる,なんてのは夢のような話だったということだ。こいつらの言ってることはやっかみにしか聞こえなくて,反論してやりたかったけど,あんな啖呵切ったあとで,そんなことできる度胸は俺にはなかった。俺は女子のその団結力みたいなものにドン引きしながらこっそり抜け出すと,「私たちは,切原の味方だからねー!」と,グループのリーダー格の女が俺の背中に呼びかけてきた。お前らなんかと関わりあいたくもねーよ,と思ってもともと少し開いていた扉を開けると,廊下には誰もおらず,静かな空間の中でたたたたっと走り去って行く足音が響いた。俺はその足音を特に気にも留めずに,トイレへと向かった。


その次の日からすぐ,結城への女子たちからのいじめという総攻撃が始まった。結城はとても強い女だった。最初のうちはとめどなく浴びせられる罵声に顔をこわばらせたりしているように見受けられたが,だんだん全くの無表情になり,どんな攻撃にも顔色一つ変えなかった。そんな結城の態度が気に食わなかったらしく,必死で結城が学校へ来にくくなるように,上靴や体操服を隠したり,上から下までびしょびしょの結城を見たやつもいた。恐らくいじめの中心となっていたのはあのときの女グループで,中には普段結城と仲良くしているように見えた人間もちらほらいて,こういうときの女子の団結力に恐怖を感じた。――結城がいじめられるようになったのは,俺のせい,なのだろうか?俺は関係ない,ちょっとタイミングが悪かっただけに違いない,そう思い込もうとしているのに,その思いが一向にぬぐえなくて,俺は何度も結城に声をかけようとして,できなかった。結城はというと,だんだんと学校から遠のいていき,ある日急に親の転勤だと,この学校を去った。目の前が真っ暗になった。先生たちもいじめについて勘付いていたようで,結城の行先も何も知らせなかった。結城をいじめていた女どもはというと,結城なんて最初からいなかったかのように元の生活に戻り,最初は結城がいなくなったことを残念がっていた男子たちも,だんだんと元の生活に戻っていった。気付けば,今でも結城のことを引きずっているのは,俺だけだった。俺はどんな瞬間でも結城との思い出がこみあげてきて,こんなに後悔して,こんなにも結城のことが忘れられないのに,このまま結城は新しい学校で楽しく過ごして,結城にふさわしいかっこよくて頭がよくて家柄もいい同じ高校の男と付き合ったりして,たまには2人で勉強なんかして,同じ大学に進学して,いい就職をして,結婚して,結城に似た可愛い子供を産んで,俺のことなんかすっかり忘れて,幸せに暮らしていくんだろうか。


高校を卒業して,大学に入学して,女と関わる機会がもっと増えて,丸井先輩たちに俺の女性経験の少なさを勝手にばらされて(日本の上下関係,まじひどい),純情やら可愛いやら言われるけど,別に可愛くなんてなくていいから,少しでも勇気がほしかった。いや,そもそも,勇気以前に,俺が幼稚すぎたんだろうか。俺が,そう,たとえば幸村部長とか仁王先輩みたいに,もう少し大人に振る舞えていたら,歯車は狂わなかったのだろうか。


もう今となってはわかるわけないから,タイムマシンを探してみるけど,どこにもあるわけなんかなくって,今日も俺の隣で笑う結城の夢を見る。






切ない5題
05.あの頃に戻りたい

2013.8.26


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