女の子は恋をすると綺麗になるというが,っちを見て,それは真実だと思った。


,最近すっげぇ可愛くなったよな」
「俺も思ってた,なんか,具体的にどこが可愛くなったとかはよくわかんねぇけど,なんかすっげぇ可愛くなった」


クラスの男子が話しているのを聞いて,“なーに言ってんスか,っちはもともとすっげぇ可愛いっスよ”,と心の中でバカにはしつつも,そんな俺でさえも思うのだ,もともとすっげぇ可愛いっちが,日に日にさらに可愛くなっていってる,と。理由は単純明快だ。っちだけをずっと見ている俺にはわかる。恋を,しているから。


っち,ストラップ変えたんっスね」
「あ,わかる?そうなんだー!可愛いでしょー!」
「うーん‥まあまあってとこっスかね」
「えー!何それ,ひどい!」


ハンカチもピンク,筆箱もピンク,カバンにつけてるキーホルダーも携帯のストラップも,携帯本体でさえピンクばかりといった女子力に溢れていたっちの持ち物が日に日に青へと染まっていく。理由なんて本人に聞かなくてもよくわかっている。だって,俺は,ずっと,っちだけを見ているから。そして,この俺のっちに対する感情と,っちの青峰っちに対する感情は,きっと同じものだから。


っち!」
「あ,黄瀬くん!」
「今日も“俺のために”応援きてくれたんっスかー?サンキューっス!」


俺の発言を冗談だと受け取ってニコニコ笑うっちはいつも通り可愛いけど,俺は強がってみただけで,っちが誰のために毎日毎日飽きもせずにむさ苦しい男だらけのバスケ部の練習を見に来てるかなんて,やっぱり本人に聞かなくてもよくわかっている,だって,ずっと,俺はっちしか見ていないから。


本当に,どうしてなのか,この世には女の子なんて星の数ほど存在するはずなのに,その中でも俺はかなり多くの女の子たちに言い寄られてきたはずなのに, ようやくその中でたった一人心惹かれた君の瞳には,ただ一人しか映っていない。 いっそのこと君を嫌いになれたらどれほど楽だろうか,そう願っても願っても, 練習中,ちらっと見えた,顔を真っ赤にして青峰っちと話す君の可愛らしさと言ったら, 嫌いになるどころか俺をより一層好きにさせるばかりで,そんな自分の情けなさに,ただただ腹が立った。


っち,最近,青峰っちと仲いいっスよね」
「?!そ,そんなことないよ!何で?!」


ほんっとに分かりやすい反応。遠くから見つめるだけだったのが,いつの間にかお昼を一緒に食べたり, 一緒に帰ったり,同じクラスでもないのに授業と授業の合間の休み時間すら一緒に過ごすようになったら, あの緑間っちですら怪しむっつの。


「何となく。ってか,うちのクラスでもちらほら噂になってたっスよ,青峰っちとっちが付き合ってるー!って」
「え,そうなの?!全然気づかなかった‥!」


照れすぎて慌てふためく様子さえ,もう本当に可愛くてたまらなく愛しいのに,俺はこの気持ちの持って行き場を,未だに見つけることが出来ない。 いっそのこと,っち自身にぶつけてしまえたら,俺は少しでも楽になれるのだろうか。 けど,“っちの1番の男友達”というポジションだけは誰にも譲る気なんてさらさらない狡い俺にそんなこと言えるはずもなく,


「何にせよ,っちの恋が成就しそうで,本当に何よりっス!」
「?!な,何のこと?!」
「俺に隠し事はなしっていつも言ってるっスよね?俺にはっちのことは何でもお見通しっスよ!俺は誰よりもっちと青峰っちのこと,応援してるっスから!大丈夫,っちなら,きっと上手く行くっスよ!!」


誰よりも応援できるはずもないくせに,嘘つきで強がりばかり,どうしようもない自分が歯がゆくて嫌になる。


「あのね,黄瀬くん!今日ね,青峰くんに付き合ってって言われたんだ!!」


こんなにも胸が締め付けられるほど苦しいのに,君のとびきり可愛い笑顔をこれほどまでに可愛いと思うなんて,やっぱり俺が悪いのだ。
今日も今日とて,顔で笑って心で泣く。






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