「どうしたの,和?」
‥」
「もう,和はほんとに甘えん坊さんなんだから」


オレが『』と呼んで抱きしめると,いつも笑顔で受け入れてくれる。
そんなが好きだった。


とオレは幼なじみ。
幼稚園のころからずっと一緒だった。
だがこの前,オレがに小さい頃からの淡い思いを告げてから,
オレたちは恋人に昇格した。
はとっても可愛くて,はとっても頭が良くて,
はとっても足が速くて,はとっても心が綺麗だった。


オレはを愛してる。
はオレを愛してくれている。
俺にとって,それが一番の幸せだった。


だが,その幸せは,いとも簡単に壊れてしまった。


『和ー!明日ね,私の学校修学旅行なんだ!!』
「そっか」
『お土産買ってくるよ!何かほしいものないの?』
がくれるものなら何でもいい」
『そう?じゃなんか買ってくるね!』
「‥ああ」
『和の学校は,修学旅行いつ?』
「知らない」
『そっか。和も修学旅行の時,お土産買ってきてね』
「ああ」
『じゃあね,お休み』
「‥お休み」


文字どおり,これが最後の会話になってしまった。


次の日,今ごろはバスの中かな,と思いながら適当にテレビをつけると,臨時ニュースが入った。
興味がないので放っておいたが,次の言葉を聞いて,目を見張った。


『BR法対象クラスに選ばれたのは――中学校3年C組です』
「‥‥!」


のクラスがBR法に選ばれてしまった。

お土産買ってくるって約束したのに‥。
オレもにお土産買うって約束したのに‥。

オレは何度も何度も願った。


が帰ってきますように‥

が帰ってきますように‥


だが,結局は,何日たっても,何週間たっても帰ってこなかった。





の墓参りに行った。
とっても見晴らしのいい場所で太陽がの墓を燦々と照らしている。
の温かい性格を,そのまま表しているようだった。


未だに信じられない。 が死んだなんて。
まだ15年も生きてないのに‥。


どうやって死んだのか――
どんな思いをして死んだのか――
誰に殺されたのか――

それさえも分からない。

もうちょっとだけでも長く,話しておけばよかった‥
いや,その前にを修学旅行なんて行かせなければ良かった‥

‥オレ,がいないこの世の中で生きていく自信,ないよ。
オレ,死んでもいい。

もしオレがバトルロワイアルに出れば,
がどうやって死んだかが‥
がどんな思いをして死んでいったかが‥
誰に殺されたのかが‥
分かるのか?

もしオレがバトルロワイヤルに出れば,
と一緒になれるのか?


‥答えて
‥答えてよ


何で答えてくれないの?


はオレを受け入れてくれなくなったの?


嫌だ‥


,オレを受け入れてよ


嫌だ‥


答えてよ,


嫌だ‥



何で死ぬんだよ!





結局は答えてくれなかった。
もういい,オレが勝手に決める。


がどうやって死んだかが知りたい。
がどんな思いをして死んでいったか知りたい。
と一緒になりたい。


だから‥出る。
バトルロワイアルに出る。





夢中で川田を撃っている最中,桐山はこんな事を思っていた。


何人も人を殺しても,結局の思いなんて分からなかった。
と一緒になんかなれなかった。


もし,俺が死んだら‥の思いが分かるのだろうか?
もし,俺が死んだら‥と一緒になれるのだろうか?


それなら死なんて恐くもなんともない。
に会えないことのほうが何百倍何千倍も恐い。


よくわかんない。もういい,死んじゃえ。


川田の撃った弾にわざとあたり,
そして立つことができなくなった桐山は,心の中で呟いた。


‥愛してるよ。
‥世界中で一番愛してるよ。
‥今からそっちに行くから。
‥そしたら,一緒になれるから。
‥だから,ちょっとだけ,待っててね。


そうして川田に止めを刺された桐山。
川田は事切れた桐山の顔を見て,やるせない表情を見せた。


「どうした,川田?」
「いや,何でもないわ‥」


物言わぬ姿となりはてた桐山の表情は,心なしか,笑っているように見えた。







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